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フットボール戦略論

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2013/06/15 コンフェデ杯 A組1 日本 vブラジル




 
ブラジル
3 - 0
  日本

03   ネイマール
48   パウリーニョ
90+3   ジョー


  スコラーリ監督
――フランス戦から進化しているか?
「今日も進化している。戦術的に完ぺきではなかったかもしれないが、考える機会を与えられた。われわれがバランスを持ち続けるのであれば、同じ条件でも勝つ可能性は高いと思う。」

――中盤から前線へのパスがない時間帯があったが、その理由は?
中盤2人がマークされていてパスを出しにくい状況だった。我々としては、少しリスクをとって、何が起こり得るのか見極めることできた。ウイングはオープンな場所にいたので、パスを通すことができた。
スポーツナビ

  ザッケローニ監督
「今日は日本らしくない戦い方をしてしまった。理由は2つ考えられる。まず、試合開始直後に、ああいった形でゴールを決められてしまったことで(試合の)入りのところでつまずいてしまった。2つ目はカタールからのロングフライトと、この試合までの日数が短かったことで、そういった現象が起きてしまったと考える。」

「岡崎を1トップに起用した理由は、相手のディフェンスラインの特徴を考えた上で、彼が適任だと考えたからだ。相手陣内の深い場所まで行ってクロスを上げたときに、相手のセンターバックが空中戦に強いということで、そこはあまりチャンスがないと判断した。」
スポーツナビ

 試合解説はこちらでブラジルに敗れたのは必然だった【日本の攻守の対応分析】


ブラジルに敗れたのは必然だった
【日本の攻守の対応分析】




昨年の対戦から積み上げた経験をどう生かし勝負するのか。それが今回の一番の見所でしたが、ブラジル代表は更に洗練され先へ進んでいた。これが率直な感想です。もちろんまだイタリア、メキシコ戦が残っているので、そこでこそ真価が問われることになると思います。なので今回は試合内容のみに絞り、下記の3点を中心に解説していきます。


開始前の戦術変更のメリット・デメリット
危ない時間帯での明暗
曖昧だった日本の攻撃




開始前の戦術変更のメリット・デメリット


ザッケローニ
監督は序盤からこれまでの戦い方とは違う二つの戦術を使ってきました。まず一つ目はスターティングメンバーから前田を外してきたこと。最初は前回対戦時と同じく本田のワントップかと想像していたのですがそうではなく、本田岡崎の2トップに近い形の布陣を敷いてきました。この意図としてはブラジルの最終ラインからの組み立てへのプレッシャー、特に前線へのフィードを防ぐものでした。


二つ目は選手との間合いです。日本はブラジルのパスコースに対してアジア最終予選時のような早めに囲いこんで奪うプレスに行かず、パスコースやドリブルコースを防ぐようにポジショニングすることのほうを意識していたように感じました。


こうした2つの戦術によってキックオフからブラジルに自陣ゴール前でパスを回され続ける。そういった状況を回避できたように見えました。しかしその直後にネイマールにゴールを奪われてしまった。これはネイマールのシュート技術を褒めるしかない。という意見も確かなのですが、それ以外にシステム的な問題が一つありました。それは本田岡崎の2枚が前線に残ることで、中盤が薄くなるという事です。


ザックジャパンの基本的なシステムである4-2-3-1ならばトップ下と2ボランチの2列3枚の中盤を構成できます。しかし今回のように中盤がフラットな4-4-2になり、さらに前線の2枚(本田岡崎)が前でチェイスすることで中央は1列2枚(長谷部遠藤)だけとなり、埋めるべきスペースが広くなってしまいます。もちろん本田香川も中盤での守備をケアする場面もありましたが、ボランチの負担が大きかったことは確かです。


※実際の試合では選手の動きは流動的です。ここまであくまでも参考として。 4-2-3-1であればブラジルのビルドアップに対して岡崎の守備の負担が大きいがボランチの負担は減る


今回のシステムあればブラジルのビルドアップに対してパスコーズは消すことができるが、ボランチの上下動は激しくなり相当の運動量が求められる。



つまり長谷部遠藤は二列目のネイマールフッキオスカールが中に入ってくる事も意識しつつ、相対するグスタボパウリーニョがボールを持てば一人は前に出てチェックしなければいけない。先制点はまさにそのバランスを突かれました。失点シーンを見てもらうと分かるのですが、左のマルセロから中へパスが通った時いわゆるDFとMFの間のバイタルエリアが空き、そこへブラジルの3選手が入ってきています。ここでフリーにした結果、立ち上がりに先制点を奪われてしまいました。日本のボランチの2人はこれだけの守備でのタスクをこなしつつ攻撃の起点としての仕事も求められるというわけでそれが後述する③にも関わってきます。




危ない時間帯での明暗


これに関してはテレビでも散々言われていましたが、前半の開始直後にゴール、終了間際にピンチ(長谷部がイエローカードで阻止)を迎え、さらに後半の開始、終了直後にゴールとある意味一番やってはいけないことをしてしまいました。


開始直後の問題に関しては、試合前に遠藤が「開始直後は高い位置からプレッシャーに来るので最悪クリアでもいいからチャンスを作らせない」と言い、香川も「前回は前半の失点が痛かったので立ち上がりは集中」と意識は持っていたにも関わらず失点。さらに吉田の「フレッジはシンプルなプレーヤーなので食いつきすぎないようにする」と言った対応も先制点時は裏目に出てしまいました。


まあ、今回の場合ですと日本の集中力が足りないというような話でなく、ブラジルの選手達が持ち味の攻撃パターンを見せ、隙を逃さない試合巧者でありということが一番の理由だったように思います。それだけ今のブラジルはチーム全体が徹底した戦術意識を持っていますし、選手のフォア・ザ・チームの意識も高いです。


特に今回のゴールシーンの前にDFを引きつけておいて後ろの選手がシュートというのはイングランド戦でもフランス戦でも見せていた攻撃だったので分析はしていたはずなのですが、わかっていても止められなっかったということなのか・・・更に言えば点を追う終盤だったとは言え、香川が前線でボールを奪われてあれだけ気をつけていたはずのカウンターから失点を喫してしまったわけですから、選手も落胆してしまうのは仕方ないでしょう。



ブラジルの3点目のシーンの全体図。得点を奪いに最後の攻撃に出た日本はまんまとブラジルの罠のはまった。



③曖昧だった日本の攻撃


守備ではこうしてブラジルの攻撃に対して歯が立たなかったわけですが、攻撃はどうだったのでしょうか。開始から20分ほどは先制点を奪ったブラジルに押されていた日本ですが、そこを過ぎた辺りからやっと中盤でボールを奪い攻撃の機会を作ることが出来るようになりました。


長友
のオーバーラップ、香川のスペースを作るオフ・ザ・ボール動き、さらに本田のゴール前で前向きボールを持てるポジショニングからのシュート。この3人からはその後も可能性は感じさせるプレーは出ていたのですが、いかんせん攻めに割く人数が少なく、引いてブロックを作ったブラジル守備網を前にペナルティエリア内へ攻めこむような場面は見られませんでした。


自陣でボールを奪ってからのカウンターにしてもそれは同じで、個の勝負で勝てないなら数的優位を作らなければチャンスは作れないのですが、実際にそういったシーンをみることはなく案の定無得点で試合は終了。参考にブラジルの得点シーンを見てみると、これだけ強かったブラジルですら数的同数の時にゴールを生み出しています。これを知れば日本が得点できないことも納得できるでしょう。


結局、①の長谷部遠藤の守備タスクの増大がそのまま攻撃の枚数にも直結して③の状態になってしまったわけです。これに関しては中田英寿氏が試合後に語ってた言葉を借りて語らせてもらうと「ブラジル相手に守備的に挑み戦えるかを探るのか、それとも自分達のサッカーをフルに発揮し勝負するのか。このどう臨むのかという所が曖昧で徹底されていない。」これが一番でしょう。ここがはっきりしなかったことで、見ている側にとって収穫のない試合になってしまったことは残念でした。



最後に、ここまで反省材料ばかりでしたが評価できた部分も少し。まずネイマールとマッチアップした内田に関して。これは試合前にも書いた通り注目していたわけですが、内田はしっかりサイドを突破させず抑えていましたね。さすがブンデスリーガ、そしてチャンピオンズリーグで場数を踏んでいるだけのことはあるという安定感でした。そしてもう一人、直前のオーストラリア戦、イラク戦と良いプレーを見せていた今野に関して。この試合でも3失点は喫したものの、ゴール前での冷静な読みとカバーリングを見る限り、調子の良さを感じさるプレーが出来ていたので今後の試合も期待したいところです。



 ブラジルの先制点のシーン


マルセロが日本の中盤の裏へ中央へ浮き球のパスを通す。



②ここでフレッジがポスト役となり胸で後ろへ落とし、



ネイマールがフリーでこの距離からミドルシュートを打ち、きっちりゴールを決める。前線中央にオスカールが入り込み守備陣を引き付けることでネイマールがフリーでフリーとなれたこと。そしてネイマール自身もしっかりシュートが打てるポジションに位置していることも重要な得点の要素だ。

■ ネイマールのシュートシーン分析


■ ブラジルの2点目のシーン


①右サイドからDアウベスがクロスボールを入れる。この時点でゴール前は5対5の状態。



②そしてここで浅いクロスに対し遠藤がインターセプトを狙いに飛び込む。この時手前のネイマールがゴール前へ動き出したため吉田は下がり、その後ろにいたパウリーニョはボールを受けに行く。



③インターセプトに行った遠藤はボールを取れず、パウリーニョはフリーに。



④さらにシュートコースも埋められず、



⑤追加点を許してしまった。

先制点はフランス戦のエルナネスのゴールシーンに(後ろのスペースに落としてからのシュート)、2点目はイングランド戦のパウリーニョのゴールシーン(ボランチの飛び出し)と同じような失点だった、さらに言えばどの得点も相手をゴール前に引きつけていることが分かるだろう。


■ 関連試合
2013/06/07 親善試合 ブラジル v フランス
2013/06/02 親善試合 ブラジル v イングランド



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